本展示では、おたくの個室、数十万人が集うコミックマーケット、秋葉原の都市空間、さらにはネット空間などが、連続した箱庭として再現される。そこは情報化時代の建築空間としてしばしば思い描かれてきたような、無色透明な浮遊空間などではない。各々が物語のオーラをまとったアニメ絵の無数の聖像(イコン)が、内外の壁、床、そして画面を、汎神的に構成している。 近代様式の移植にともなって「いかもの」として抑圧され続けてきた偶像や聖像が、八百万の神々のように立ち現れ、流通し、コミックマーケットや秋葉原が“聖地”として巡礼される。喪われて久しいとされる都市的な祝祭空間と壮大なポトラッチが、そこには脈々と生きている。 おたく趣味は漫画、アニメ、ゲームなど、メディア横断的な特徴を持っており、また日本の現代文化としては例外的に海外に越境し得ている。これはおたく趣味が、特有の自意識とセクシュアリティをベースにしていることと関係している。これまで、国家や民族、宗教やイデオロギーなどをベースにした文化圏は多々あったが、人格をベースにしたものはなかった。この、都市をも変える新たなる構造としての「人格」の浮上は、環境の情報化と密接に絡んでおり、資本とはまた違ったパターンで、容易に旧来の境界を越境し、場を形成する。
〈おたく〉を、商品や作品としてではなく、その人格を起点とした横断的概念として、展示を通して提示するものである。 |